公開当初そこまで興味はなかったものの、ネットや自分の身の回りで賛否両論渦巻いているのを見て興味が沸いた本作。そうじゃなかったらさらっとスルーしてたのかもなという映画ですが結果からすると見てよかった。
以下ネタバレ満載で突き進みますので、情報入れずに本編楽しみたいという人はご遠慮ください。自分もできるだけ事前情報耳に入れずに見たつもりだったのですが、それでも多少知ってしまっていた要素を取り除いて本当にピュアに見てみたかったなー、と思ったので。
作品としてはドラクエVが3DCG化されている、そしてどうやら最後のオチがとんでもない、というところまでが見るまでの事前情報だったのですが、見終わった後の感想としてはドラクエV部分がひたすらに退屈で、このまま退屈ストーリーで終わったらたまらんな、というところへとんでもなく雑なひっくり返しが来て、退屈なまま終わるよりはよかったというよりあれで終わらなくてよかったと安心した、というところです。
前半については冒頭のゲーム画面といいストーリー運びといいドラクエVを知ってる人前提でストーリーが進行していて、そのせいかドラクエVを思い切って料理できずひたすらドラクエVのシナリオとキャラを追いかけるも、そんなことやるには映画の時間が足りなすぎて結果全部が全部薄まっており、場末のキャバクラ並みにドラクエVをひたすら水で割って飲まされているようなそんな感覚でした。
基本的に原作ものはひたすら忠実に再現するか、原作から外れるならそれだけ意味のある作品にして欲しいしそのときは無理に原作をなぞる必要はない、というスタンスなのですが、本作に関してはドラクエVの呪縛から逃れられず思い切ったシナリオ変更がほぼない状態で、一方でストーリーがぶつ切りなこともあってドラクエVである意味もあまり感じられなかった。あれ、ビアンカやフローラやゲマやらが出てきたから補正できたけど、あれが見たこともないキャラクターで構成されたストーリーだったらキャラクターへの愛着も全然わかないのでは。
そんな薄っぺらい前半が、これまた「この世界は架空の存在だった」という今まで何度使われたんですかそのオチはそもそもゲーム映画最後のオチが不評という時点で大体想像ついたわみたいなものだったわけですが、前半が相当退屈だったがゆえにあんなオチでも「やっと退屈パートが終わった」という安心感と、それにしても今時ゲームを一方的に敵にする陳腐なシナリオで最後ひっくり返すのかよという面白さで最後はずっとニヤニヤしながら見てました。
結局のところ最初があまりにも退屈なのはVRでひっくり返すから、と言えばまあ理屈も通るし、最初からまとわりつくスライムの伏線もちゃんと回収するし、でそこのつじつまはそれなりに評価。ただ、明らかにこれはゲームだぞ、何周目かだぞ、とキャラクターが言ってくるのは「ほらここが伏線だぞー」と言われているようでちょっと興ざめでしたが。基本的にWebサイトとかも「ここがおもしろいんだぞーわらうとこだぞー」といわんばかりに大文字とか装飾されている文章って苦手なんですよね、面白いところがどこかは文章で読ませろよ。
というわけで作品として面白いという評価では決してないものの、最初があまりにも退屈で、それを凡庸なオチとはいえ最後にひっくり返してくれたというところでは痛快だし、それなりに理屈も通ってるので、少なくとも最初のファンムービーみたいな世界観で終わられるくらいならよっぽどよかった、というのが全体を見た感想です。
なんというかコース料理でひたすら甘いレトルト料理みたいなのを続けて出されて、おいおいこのコースこのまま行くのかよ! と思ったら最後で麻辣系の担々麺が出てきて、おお! やっと甘いの終わるのか! この担々麺もそこら辺にありそうな味だけどな! という料理で締めくくったみたいな感じでしょうか。よくわからんかもだけど。
そして断固フローラ派として一点前向きに褒めるところとしては、見る前から気になっていた「結局フローラなのかビアンカなのか」問題には敢えてけりがつけられなかったということ。いや前半ではフローラ選ぶのが自己暗示みたいなストーリーになってて、それいうならパッケージに描かれているだけでヒロインと思い込まされているビアンカのほうがよっぽど自己暗示だろうが! と憤っていたのですが、結果としてそれは単なる1プレイヤーが選んだ選択肢でしかなかった、という着地をしたおかげで、今回のストーリーも「1プレーヤーが選んだビアンカ」のシナリオにおちついて、決してフローラが二番手ということにはならなかった。ドラクエVはどんなに前情報があろうとも結婚相手を選ぶ時点では対等でありそこはプレーヤーに委ねる、というところが醍醐味だと思っていたので、そこを崩されなかったのはフローラ派としてもドラクエVファンとしても一安心。
とはいえじゃあなぜフローラは勝手に暗示を解こうとしたのかは謎だし(好意的に解釈すればマーサも自我が芽生えているので、キャラクター全般に何らかのAI要素が働いているのかもしれない)、ブオーンが仲間になる展開は面白かったけど仲間になるまでの説得力が薄いし、全般的に見る人が持っているビアンカ、フローラのキャラクター像なしに映画の中のキャラクターだけ見てても全然キャラが立ってないというあたりでもいろいろ雑な映画だなとは思うわけです。
そしてそもそもこの映画は何が言いたくて何を伝えたくて作ったのかがわからなくて、結局「ドラクエの映画を作れと言われたから」以上のものが見えない。最後のオチをメッセージにするならあまりに唐突すぎるし、それをユアストーリーとするなら前半のストーリーをとっとと終わらせてマトリックスみたいに現実世界をもっと描けばいいと思うし、ドラクエVのファンムービーとするならやっぱり後半は蛇足なわけで、映画としては実に凡庸以下だなとは思います。
それでもこうやって賛否両論が吹き荒れる映画の醍醐味は上映中に行ってこそで、ネタバレできるだけせずに避けてきた映画の感想やレビューをむさぼり読むと「ほう! なるほどこう考えるのか!」という驚きがあってそれが楽しいので、その一点において映画として見に行ってよかったな。まだまだほんのさわりくらいしか読めていないので、いろんな感想をひたすら探してむさぼり読みたいと思います。
個人的には本作が松本人志監督の「大日本人」に通じるところもあったなあとも思う。ただし大日本人は、劇場で高い金を払った観客に対してああいうオチで占めるというところまでが1つの様式美であって、だからこそあれは劇場で見るべきであり映画というより「松本人志の世界観で映画を遊ぶとこうなる」という1つの例として面白かったのですが、本作についてはそこまでの意図も見られず使い古されたオチで終わるあたり、似て非なるものではあるのですが。
あと、リュカ問題についてはもうこれ圧倒的にアウトでしたね。主人公の名前がリュカというだけならまだしも、現実世界において自分がずっと使い続けてきた名前だった、という設定にしたことでそれはもう単にキャラの名前にしただけでなく、現実世界においてリュカという名前で存在した小説がベースになってるじゃないですか。そりゃさすがに久美沙織先生も悲しみますよ……。このあたりの経緯はご本人がとても丁寧に文章でまとめているのでそちらもお読みください。
「小説ドラゴンクエストV」の著者,久美沙織氏が,映画「DRAGON QUEST YOUR STORY」製作委員会を提訴 – 4Gamer.net
https://www.4gamer.net/games/281/G028186/20190802147/
そして最後に思うのはドラクエV好きの古参はいいとして、ドラクエも大して知らない子供たちはあれ見て楽しめるのかな。「あんなの子供が置き去りだ!」と決めつける気はなく、純粋に前提知識がなくドラえもんやポケモン見る感覚で映画館に行った子供たちは果たしてどういう感想だったのかな、というのがちょっと気になるところです。