Web3やらNFTやらについてはあまり表で言及しないようにしていたのですが、急にボールが来たので……。
この記事を書くにあたっては、Web3 Quick Tourという勉強会にご参加いただいたみなさんとの議論を土台にさせていただきました。特にカイさんには多くの刺激をいただきました。
空想のNFTと現実のNFT – by Daisuke Sasaki – メディアヌップ
https://sasakill.substack.com/p/imaginarynft-and-realnft
そんなわけで、技術や未来に興味はあるものの、界隈の空気がどうも自分には合わないな……と遠巻きに見ていたWeb3やNFTですが、友人の @sasakill が Web3について書いた記事をきっかけに「Web3興味あるけどちょっと距離置いている人に向けた勉強会」の開催を依頼、この分野には素人ですがわーわーいわせてもらった結果が上記の記事につながり、末尾に私の名前も入れていただいたという次第であります。
Web3はコンテンツの黄金時代か、それとも金ぴか時代か? – Media × Tech
https://www.mediatechnology.jp/entry/2022/01/21/110000
前述のブログについても、言及先である下記ブログの記述について私が「かなり近い感覚」とコメントした上で紹介したことがきっかけになっており。
電子の世界はノーコストでコピーが可能なのが利点なのにそれをわざわざ殺して不便にした世界でないと出せない価値はない。
NFTとメタバースについて思うこと – Software Transactional Memo
https://kumagi.hatenablog.com/entry/nft
その結果として書かれたブログについてもとても興味深く言及したいところたくさんで、よーし久々にがっつりブログでも書こうかなと思っている間に、言及元のブログから剛速球のリターンが返されたというのがイマココ状態です。
Re: 空想のNFTと現実のNFT – Software Transactional Memo
https://kumagi.hatenablog.com/entry/imaginary-nft
このRe: というタイトル、ブログ全盛期に自分がよく付けたタイトルだしこのタイトルで自分もブログ書こうかな、と思っていたら先を越され、しかし他にいいタイトルも思いつかなかった結果、多少は絡んでるけど直接のやり取りじゃないからFw: くらいがちょうどいいんじゃない? というのが本題に入る前のタイトルに関する言い訳コーナーでした。
そしていよいよの本題ですが、前述の通りそもそも自分はWeb3やNFTについては門外漢であり、詳しい人に気になる点をいろいろ聞いてみたいというスタンスで勉強会を開催してもらった立場なので、以下についてはWeb3について詳しくない人が気になったポイントをつらつら書き綴っていることをあらかじめご了承ください。というかこの分野全然詳しくないので、そもそもの理解が違っているとか情報が足りてないとかありましたらどしどし指摘していただけるとありがたい状態です。
という長い前置きを踏まえた上で、まずは自分で共感を覚えたこのフレーズについて再度引用。
電子の世界はノーコストでコピーが可能なのが利点なのにそれをわざわざ殺して不便にした世界でないと出せない価値はない。
これについてメディアヌップではこのように指摘。
もちろん、手元のクライアントで何かのデータを複製するのは、ごくごくわずかな電気代さえ無視してしまえばなんの費用もかかっていないと言えるだろう。ところが、ウェブを提供しているサーバーで何かのデータを複製し、しかもそれをいつでも利用可能な状況で提供し続けるには、コストがかかる。単に電気代のことを言っているのではない。サービスを提供する企業間の競争が、技術者の採用やマーケティングにおけるコストを生じさせるのである。コストは「見えない化」されているだけなのである。
この指摘はごもっともで、デジタルは簡単にコピーできるけどコピーするための機材や人件費は決してタダではなく、ノーコストでコピー可能、というと語弊がある部分はもちろんあります。
これと同じようなことは自分のハードウェアスタートアップ時代に「IoT」というキーワードで何度も体験しました。最近はすっかり落ち着いた感のあるIoTというキーワードも一時期はバズワードとしてもてはやされ、IoTが万能のツールのごとく語られるのをよく目にしていましたが、ハードを作る側の立場としては、IoTという言葉自体が話題になるのは嬉しいけどその理解はどうなのかな……、とモヤモヤすることも。
そもそもIoTを実現するにはすべからく電源が必要で、コンセント使うなら場所が制限されるしバッテリー使うなら容量や重量、輸送などいろいろな問題が出てくるし、Bluetoothのローカル通信ならまだしもインターネットを介するハードウェアはサーバーが必要で、じゃあそのサーバー運用費は誰が負担するの? ハードの生産を終了した後いつまでサービスを提供し続ければいいの? とか、見えない部分で考えなければいけないことは多々あるわけです。
とはいえ、こうした作る側にしかわからないことはいったん除外した上で、IoTという技術や可能性そのものについて言及することそのものは価値があると思っていて、これは例えるなら物理の摩擦係数みたいなものだなと。
物理を勉強するとき、高校生の試験レベルだと「摩擦係数は考えないものとする」という条件で学ぶけど、現実世界で摩擦係数を考えないわけにはいかない。でも物理の仕組みを学ぶ上でいったん摩擦係数をポカンと忘れることは意味があることで、IoTにおいても電源やらサーバーやらを忘れてIoTそのものの価値について考察したり議論することそのものはとても大事なことだと思います。
そして話を戻して、これは前述の議題でも同じことが言えるんじゃないかなと。デジタルをビジネスにする以上はどうしてもコストの話がつきまとうのですが、いったんそのコストを摩擦係数と同じ扱いにしてデジタルそのものの価値を突き詰めて考えることには価値があって、そのときに「デジタルはノーコストでコピーできる」という考え方は、デジタルの本質を追究するには意味があることなんじゃ無いかと。
そしてここからがいよいよ本丸なのですが、NFTについてはデジタルとは逆の意味で摩擦係数的な話題をそぎ落として考えたほうがいいのでは。
何が言いたいかというと、デジタルがノーコストでコピーできるわけじゃないというなら、NFTも現状期待されている未来がNFTだけで実現できるわけではないのでは、ということであり、世間で語られていて自分が目にするNFTの可能性はNFT単体ではなく他の技術や要素を込みにした上で語られている気がしていて、それはいったんそぎ落とした上で、NFT単体にどんな未来があってどんな可能性があるのかを考えるほうがいいのではないか、という議題設定です。
たとえばNFTのメリットとしてよくあげられる非代替性。コンテンツ自体はコピーできてもNFTは唯一無二のものであり、コンテンツを所有していたり作成したという証拠は永久に残る、という技術自体はとても興味深いのですが、とはいえNFTはコピー防止技術ではなくコンテンツそのものはコピーできてしまうわけで、だと不正コピーが止められるわけではない。海賊版が出回っても作者や購入者としての証拠がNFTで担保されたとして、コピーされ続けることに歯止めがきかなかったら果たしてどこに意味があるんだろうか。自分の名前書いたファミコンソフトは唯一無二だけど、友達に借りパクされてしまったらどうしようもないよね……。
NFTで非代替性を保持できるのは素晴らしいけれど、ノーガードでコンテンツをコピーし放題だったときにNFTで非代替性を保持できるだけでいいのかな、それってコンテンツを保護するDRMもセットで考えないと現実的には意味が無いのではないでしょうか。
非代替性を利用して限定100名だけにコンテンツ販売、という手法においても、コストをかけず無限にコピーできるデジタルの意味を殺してしまっているし、それは「限定100人に入れた」という射幸心を満たすだけに思えてしまう。
メディアヌップで指摘されているように、カードゲームはもちろんオンラインゲームなどでアイテムの数を制限することでゲームシステムを確立する、というのはあると思います。オンラインゲームの世界において、最強の武器はやはり希少価値があったほうがゲーム性があるし。でもその希少性ってNFTで非代替性を担保するより、やっぱりDRMで「このアイテムは貴重だしおいそれとコピーもできないよ」と保護したほうがいいのでは。
NFTをファンクラブの限定IDとして使う、みたいなアイディアも目にしたけど、それも本質的にはIDシステムでやるべきでNFTなのかなという気がする。NFTで非代替性を担保したとして、それをコピーした偽会員が現れた時に、どっちが本物なの? と特定するには結局別の会員システムが必要になってしまうのでは?
門外漢ながらNFTの非代替性にぼんやりと期待するのは、異なるビジネスの場を同じ価値でつなぐ存在となりえればいいなと思っていて、例えばとあるオンラインゲームでがんばって手に入れたアイテムが別のゲームでもそれなりの価値を持っている、という接続ができるのであればそこに意味はありそうな気はする。
でもそれもオンラインゲームがお互いにシステムとしてつながっている必要があって、両者がつなぐオープンなIDとしての意味はあるだろうけどそれは必ずしもNFTでなくてもいいのでは。そして1つのIDで異なるサービスで異なる複数のサービスにログインできるという仕組みは、今もTwitterやFacebookやGoogleやらのIDで実現できているわけなので、わざわざNFTを使う必要もない。
そしてそんなシステムが実現したとして、さらにその先にはお互いの世界でアイテム同士の価値をお互いに設定しあわなければいけない。あるゲームで手に入れた「勇者のつるぎ」というアイテムが、別のゲームで使用できるためにはそのアイテムが自分の世界でどんな値段でどんな強さでどんなグラフィックかを設定しなければいけなくて、それってもうNFTの世界ではないんじゃないだろうか。
NFTの非代替性は非常に面白いけれど、それを実現するためにはさまざまなシステムがあっての話で、そしてそうしたシステムが構築された世界においてはNFTがただのIDとしてでしか役に立っていないのではないかな、というのが、いまのところNFT関連を眺めて思う疑問なのでした。
例えるならNFTはパスポートみたいのもので、パスポートを持って海外に旅行したときに本人だと認めてもらえるのは、世界各国がパスポートという仕組みでつながっているからであって、パスポートという制度のない未開の国があったときにはその制度は通用しないし、そもそもパスポートだって共通の非代替性ではない国ごと異なる独自システムなんだけど、国同士がお互いに自分たちで非代替性を担保してね、と認め合っているから成立しており、サービスごとに独自のID管理できてればいいんじゃないだろうかみたいな話です。
あとWeb3の勉強会で教えてもらったENSという仕組みも気になったポイント。ENSというのはインターネットにおけるDNSみたいなもので、好きな名前を設定したらその非代替性が担保され、他のユーザーに売ったりできるという話のようです。
DNSというかドメインも現在は同じことがおきていて、有名企業が失効したドメインは高値で取引されるんだけど、でも冷静に考えるとドメインの価値はドメインそのものではなくて、そのドメインで提供されていたサービスやコンテンツであり、運営者が手放した時点で本質的にその価値はゼロだと思うのですよね。ただインターネットの世界ではSEOという仕組みがあって、前に使ってた人のドメインを手に入れることでドメインに紐付く価値を手に入れることができてしまう。
人気漫画家が使っていたペンは、その人が使っていたというメモリアルな価値はあれど、そのペンを使ったら人気漫画家と同じマンガが描けるわけでは決して無くて、けれどドメインについては前にそのドメインを使っていた人のSEOやリンクというサービスとしての価値がある程度引き継げてしまう。それは現実的に起きてしまうのは仕方ないとして、決して理想的な仕組みではないと思うし、そんな結果的に発生してしまった価値感がNFTでも同じように使われるのかーというのは疑問に感じました。
NFTで書く文章についても、その文章を書いたという証拠とその文章を買ったという証拠はNFTで保持されるけれど、文章そのものを自由に書き換えられるのだとするとそこにあまり意味は無くて、やたらはてなブックマークがついた後に中身をごっそり書き換えてしまうはてな匿名ダイアリーみたいなことができてしまいそう。かといって一度NFTで非代替性付与したら書き換えれないとすると利便性の面で困るし、書き換えの履歴ごと変えたとしたら、問題があって消したかった文章も永久にデジタルに残されてしまうことになってしまう。
そうそう、NFTといえば非中央集権、みたいな話もありましたね。これも現代に対するカウンター的な思想としては面白いのですが、非中央集権でも運営にはコスト掛かるのでNFTだけで実現できるもんでもないし、NFTに対応したサービスが世を席巻しないと中央集権を脅かす存在にはなれないわけで、非中央集権だけで世の中変わるならもうちょっとみんなマストドンに注目してあげてくれ、とも思うところです。
と、NFTについて気になることをつらつらと書いてみたのですが結局のところ思うのは、いまのNFTやWeb3は話題だから、儲かりそうだからという視点で注目されていて、そうした注目ポイントを除いて考えると、NFTに期待されていることはNFTだけでは果たして実現できるのか。そして対応すると面白そうな共通IDではあるけれど、それはあらゆるサービスがNFTを採用して初めて実現できる世界で、NFTがすごいから世界が変わるというのは順番が逆なのではなかろうか、というのがいまの自分の理解しているところであります。
ただ断っておくと話題だから、儲かりそうだからというのもとても大事なことで、それはそれで価値として考えなければいけない。疾風のように現れて疾風のように静まった感のあるClubhouseも、もちろん技術やサービスとしても魅力的だけど、一定期間とはいえあれだけ世に影響を与えたのは「話題だから」「儲かりそうだから」という要因を抜きにしては考えられないわけで。
NFTは面白そうな技術と考え方だけど、その理念を実現するにはNFTが牽引するというよりも、世にあまたあるサービスやコンテンツがNFTに対応するという主従関係が逆で、そしてNFTが価値を生むためには対応サービスやコンテンツが多くないと話にならない、そうするとひたすらバズを巻き起こしてとりあえずNFTが面白そうだから対応してみるか、という空気を作ること自体は、目的を実現するための手段としては理解できなくもない、というところです。
まとまりのない文章を書いてきましたが、これだけ書いたところで結局のところ自分は門外漢であるのでまったくもって的を射ていないことを言っているかもしれません。とはいえ勉強会のお陰でWeb3やNFTに対する知識や理解は以前よりは進んだかな、と思っているので、ブログも書いたしいい機会としてWeb3周りのサービスを一通り実際に試した上で、また改めて自分の脳内で考えたり、友達と議論交わしながら考えてみたいと思います。NFTに詳しい方、興味ある方の指摘やコメントも大歓迎なので、ぜひぜひご意見お寄せくださいませ。
あ、あと最後に、DiscordがWeb3と呼ばれているのはすみませんがさすがに吹いてしまった。そもそもゲーマー御用達のサービスとして地位を確立してきたサービスであり、サービス運営者がいるという意味でめちゃくちゃ中央集権的なサービスじゃないかと思うのですが。
じゃあの。
NFTに何かとメタバースが紐つけられるのも、パスポートのようなそれで全てが繋がっていることが前提な世界が現実よりも遥かに楽に構築できるからなんだろうな。
> NFTで非代替性を担保したとして、それをコピーした偽会員が現れた時に、どっちが本物なの? と特定するには結局別の会員システムが必要になってしまうのでは?
ここちょっとよく分かりませんでした。
NFTの所有者のほう(NFTの所有者アドレスの秘密鍵を持っていることを示したほう)が本物だと特定できるのでは?
会員証のコピーは作れても、ブロックチェーン内のNFT所有者は書き換えられないので。
(「別の会員システムが必要」というのは、会員証に書かれたID(NFT)の所有者が誰かを確認する機能を実装したシステムが別に必要になという意味?)
まさに最後の意味でした。NFTの非代替性を確認するためのシステムは別で必要なのでは、という意味です。
例えばコンサート会場とかでNFT対応の会員証を見せたとして、それが偽造かどうかを判別するのはひと目じゃ把握できないなーと。最近のアプリは数字がリアルタイムでカウントダウンしてたりとか、3本指で触って初めて本物特定していて、結局そういう仕組が一緒にないと偽物かどうかの判別難しかろうということです。
で、そういうDRMだったり海賊版防止の仕組みとNFTを組み合わせるとしたら、保護機能は別で保持しているのでわざわざNFTを使う意味どこにあるんだろう、そのシステムで独自にID振っとけばことたりるのでは? という疑問でした。
そういう意味で、NFTが全世界で使えるくらい汎用性が高くて、ID投げるだけで使えるAPIやSDKとかが充実しているならとても魅力的だなとおもうのですが、それもNFT単体の話ではないよなーともやもや考えてしまったということです。
ちょっと言葉足らずでわかりにくかったとおもうので、コメント踏まえて後ほど反映しますね!