発売されるなり紙の書籍は瞬殺、その後も在庫なしと在庫有りをくりかえしながらいまだ人気の写真関連書籍「HDR写真 魔法のかけ方レシピ」、飲み仲間でもある著者本人から発売時に献本いただいていたのでいまさらながら書評など。
HDR写真 魔法のかけ方レシピ ~撮ったあと生まれ変わる、写真のあたらしい楽しみ方
タイトルの通り本書のテーマは「HDR写真」。iPhoneのカメラに搭載されたことで知名度上がった感がありますが、「ハイダナミックレンジ」の略であり、複数の画像を組み合わせて1枚の写真では実現できないような写真を作成するための手法です。
HDRというとこんなサイケデリックでまるでイラストのように思える写真を思い浮かべる人が多いかもしれません。
一方で下記の記事にあるように、暗い写真と明るい写真をうまく合成することで、より肉眼に近い写真に仕上げることができるのもまたHDRのおかげです。
白とびが発生する限界の露出値と、黒つぶれが発生する限界の露出値の幅をダイナミックレンジという。HDRは、黒つぶれ写真と白飛び写真を、通常のダイナミックレンジより広いダイナミックレンジで合成する。
ASCII.jp:iPhoneカメラでも撮影できる「HDR」写真とは|3分でわかるWebトレンドキーワード
http://ascii.jp/elem/000/000/880/880051/
このあたりのHDRとはなんぞやというお話は、著者本人のポッドキャストを聞いていただくととてもよくわかるのでぜひ一度聞いてみて下さい。
HDR写真について @mayumine 聞いてみたModern Syntax Radio Show 412回目 #MSRS – [モ]Modern Syntax
http://www.aivy.co.jp/BLOG_TEST/nagasawa/c/2014/10/hdr-mayumine-modern-syntax-radio-show-412-msrs.html
本書がすばらしいと思うのは、前者の芸術的なHDRも、後者の現実的なHDRも両方をきちんと紹介しているだけでなく、そもそもHDRとはなんぞやというところまで踏み込んで解説がスタートしているところ。
このあたりは著者だけでなく編集さんとのコミュニケーションあってなのかなとも思いますが、実はHDRが大正時代には始まっていたという豆知識に始まり、HDRの技術解説を実際の写真を交えながら解説しているので、写真技術だけではなくHDRの仕組みもよくわかります。大きく言ってしまえばHDRを超えて「デジタルカメラとはなんぞや」という仕組みの一端がわかる、といってもいいかも。
個人的にも芸術的HDRはほとんど興味ないし、そもそも写真にそこまで手間をかけたくないというのが本音なのだけど、後者のHDRに関しては「ああ、HDRやりたいなあ」って思うことがたまにあります。たとえば以前に訪れたダンジョン感溢れる大谷資料館で写真を撮った時のこと。
洞窟内はほとんど光がなく真っ暗だけど、一部は外の明るい日差しが飛び込んでいて、とても綺麗なコントラストだったので写真に収めようと思ったらこれがまったくもってうまく写真に撮れない。まさに前述のASCII.jp記事にあるようなシチュエーションです。
こういうシチュエーションに出くわすと、デジタルカメラは綺麗な写真撮れるようでいて人間の目とは違うものが撮れているのだなあと思い知らされる。HDRは写真の演出という技術としてももちろん使えるのだけれど、むしろ「自分が見た思い出をそのまま記録しておきたい」という人にとっても大事な機能だなーと思います。
話戻ってこの「HDR写真 魔法のかけ方レシピ」、HDRの写真を撮りたい人に向けても解説が懇切丁寧でとてもためになる。自分もガジェット解説記事やら書籍やら執筆経験があるのでそういう目でも見てしまうんだけど、写真と文章の解説バランスが実に丁寧。例えばカメラの構え方は文章だけでなく実際に構えている写真も掲載しているし、撮影に必要な小物もただそれを紹介するだけでなく、ちゃんと実践に配置した状態で写真が載っている。
こういう細かい作業って地味だけど読む人にはとっても大事なんですよね。以前読んだカメラの書籍で「ハンカチを使うとごはんの写真がおいしく撮れます」という説明が文章で一行だけあって、「いやそのハンカチの置き方とか使い方がしりたいんだよこっちは!」と全力でツッコミましたが、この書籍は「ああなるほどこうやって構えるのかー」ってところが写真と文章でよくわかる。ソフトの操作も推すべきボタンをちゃんと赤枠で囲ってたりして視認性もよく、かなり丁寧に作ってるなあと思います。
そしてさらにもはやズルさとも言うべきコンテンツが、著者自身が世界一周旅行で撮影してきたHDR写真の数々。撮影例としてはもちろん、世界の魅力的な風景がこれでもかと詰まっているので、パラパラとめくっているだけでも楽しい。旅行本でもないのにちょっと海外旅行行ってみたくなる旅行記としても楽しめます。
かなり褒め倒してしまった感ありますが、ほんとにひいき目なしに見てもいい本だし、とっても丁寧に作られてるなというのが正直な感想。HDRテクニック本としてもよし、HDRを学ぶデジカメ知識本としてもよし、美しい写真で楽しむ旅行記としてもよしと、一粒で何度もおいしい本になっていると思います。こういう一生に渡って自分の代名詞にもなりえそうな書籍を出せたということがちょっとうらやましく感じるほど。
ついでにこの書籍購入者には、HDR写真を作成するのに必要なソフト「Photomatix」が30%オフで3000円くらいやすくなる特典もあるとのことで、HDR写真を始めてみたいという人にもうってつけ。ちなみに特典の入手方法がわかりにくいですが、出版元である技術評論社のサイトにクーポン入力方法が書いてあるので購入した方は参考にしてくださいませ。
サポートページ:HDR写真 魔法のかけ方レシピ 〜撮ったあと生まれ変わる,写真のあたらしい楽しみ方:|技術評論社
http://gihyo.jp/book/2014/978-4-7741-6989-7/support
あとはもし可能ならHDRする前の素材をダウンロードできるようにして、本書の通りに操作するとHDRが作れるよ! っていうのもあるといいかなーとおもった。HDR始めようにも素材入手するのが大変だし、写経としてまったく同じ作業をするだけでもHDR写真を作成する楽しみが味わえるかなーと思うので。
余談ですが本書はKindleでも売ってはいるのですが、できるだけ紙の書籍推奨です。電子書籍じゃなければ本読まないまで言い張っている自分でも、この写真の美しさは紙でないと伝わらないよなーと実感しました。Kindleだと見開きもできないようなので、せっかく左右でHDRの比較しているところも楽しめないので、入手困難ではありますがまずは予約ボタンぽちっとしておくといいと思います。
そうそう、これが本題だったのに書くの忘れるところだった。11月26日には東池袋/雑司ヶ谷にある一風変わった書店「天狼院書店」にて、著者本人が1日店長を務めるイベントがあるそうです。日程にご都合のいい方はぜひ足を運んでみて下さいませ。
【11/26Wed一日店長】HDRフォトグラファー石川真弓さん一日店長 ”あなたの撮った何気ない写真を劇的にかえる”「魔法のかけ方」お教えします!!《天狼院フォト部スペシャル》 – 天狼院書店
http://tenro-in.com/event/8521
以前に行なわれたHDRレシピ本セミナーの様子は実際に参加して動画で撮影してきたのでこちらもよろしければ。アクションカム使ったので絵はいまいちですが音はかなりしっかり撮れてると思います。