「人生の教訓」を学ぶ美味しんぼ珠玉のエピソード俺ベスト5


知人に美味しんぼのすばらしさを力説していたら、「じゃあお勧めのエピソード教えろ」という話になり、今回のブログが生まれました。

くだんの鼻血問題だけでなく、赤ちゃんにはちみつ食べさせちゃったエピソードやらWindowsをやたらめったらDisるエピソードなど問題も多い美味しんぼですが、そうした問題回もありながらやっぱり美味しんぼは面白い。単なる食べ物の紹介に終らず、食べ物とヒューマンドラマをうまく組み合わせたとてもよいエピソードも多々あります。

とはいえ美味しんぼの名エピソードは「このあらいを作ったのは誰だ!」「士郎の奴め」「明日ここに来て下さい、本物の……」という名ゼリフ回、超能力でタイムスリップして最高の吸い物を作るトンデモ回、悪い人だと思ってたけど和解して仲間になるジャンプ回など、回によっていろいろな特色があります。すべての中から珠玉のエピソードを選ぶのは数が多すぎるので、今回は「人生の教訓」として学ぶことの多いエピソード5つ、というテーマで選んでみました。

選んだのはあくまでベスト5なので順位は不動。また、「このエピソードも教訓回としていいよね」というのありましたらぜひどしどし情報お寄せ下さい。

不器量な魚(18巻「生肉勝負!!」収録)

金沢にある有名料亭で働く職人の森口。料亭の大旦那からは「自分の娘と結婚してこの店の跡取りになれ」と言われていたのに、気がつけば結婚するはずだった相手は自分の後輩と結婚してしまい、怒りを覚えた森口は店を飛び出して独立。一方、名誉ある茶会イベントで料理を担当する料亭だったが、大旦那が体を壊してしまった上に後輩は大きなイベントを仕切るまでの腕ではない。料亭の従業員から、なんとかこの茶会を助けて欲しいと泣きつかれるも、けんもほろろに断る森口。

どうして結婚予定の相手に相手にフラれたのかと質問され、「自分が醜男だから」と嘆く森口を笑い飛ばす山岡士郎。それに対して怒る森口と山岡とのやりとりがこちらです。

 (原作:雁屋哲、作画:花咲アキラ「美味しんぼ」BookLive!電子書籍版18巻・150ページ)
(原作:雁屋哲、作画:花咲アキラ「美味しんぼ」BookLive!電子書籍版18巻・150ページ)

「素材の良さに自信を持て」というのは美味しんぼでも多く、究極対至高のスパゲティ対決、男勝りだった女性寿司食人が女性であることの武器を確認するなど、同様のエピソードも多い中で、このエピソードは「他人の評価など気にせず自分に自信を持とう」という考え方がとても好き。仕事にしても趣味にしても、他人がどうこういうことに振り回されず、自分の道を貫くのは簡単なようでいて簡単ではないですが、自分の中に誰にも譲れない武器を持っていれば他人の考えや意見に惑わされることもないのだなと考えさせられます。

ちなみにこの森口が得意なのが「ゴリ」という見映えのよくないけど味はうまいという魚で、最後は森口をゴリに例えてからかいつつも、ちゃんとしたご褒美もやってくるというヒューマンドラマ性もこの回の見どころです。

二代目の腕(8巻「飲茶」収録)

名人と呼ばれた天ぷら職人だった親の後を継いで天ぷら職人になったものの、「先代よりも味が落ちた」と常連たちは店を離れて閑古鳥状態。その状態を山岡士郎は「味ではそこまで差はないものの、先代が評価されすぎていたゆえに先代と同じレベルでは評価されないのだ」と看破。

 (原作:雁屋哲、作画:花咲アキラ「美味しんぼ」BookLive!電子書籍版8巻・210ページ)
(原作:雁屋哲、作画:花咲アキラ「美味しんぼ」BookLive!電子書籍版8巻・210ページ)

これは割と身の回りでもよくある話で、過去を懐かしみ高く評価しすぎるあまり、現実を正しく見ることができないという人も多い。要はブランド権威主義に近いところもあるのだけれど、現実としてそういう人が多い以上、「同じくらいおいしい!」と言い張っても何も変わらないわけで、その価値観をひっくりかえしてやる何かしらの手法が必要になる。

今回の天ぷらにおいて山岡士郎が取った秘策はなんなのか。それはネタばらししてしまうと面白くないのでぜひ該当巻を手に取ってお確かめ下さい。個人的にもこの手法は大好きで、こびりついてしまった偏見を解くのに直球で攻めるのではなく意外な手法で攻める、北風と太陽的なやり方です。

画伯とブリ(25巻「対決!!スパゲッティ」収録)

体調を崩した上に最愛の妻に先立たれ、すっかり描く気力を失った有名画伯と、なんとか元気づけようとする山岡士郎の仲間たち。ブリが大好物という画伯に「最高のブリ料理をご馳走しますよ!」と言った山岡士郎だったが、料理の会場は古ぼけたビルの地下一階、そして出されたメニューはブリ大根のみ。「どういうことだ!」と怒り狂う周囲をよそに、画伯はこのブリ大根で元気を取り戻すのでした。

 (原作:雁屋哲、作画:花咲アキラ「美味しんぼ」BookLive!電子書籍版25巻・155ページ)
(原作:雁屋哲、作画:花咲アキラ「美味しんぼ」BookLive!電子書籍版25巻・155ページ)

海の近くで育った画伯に海を見ながらブリを食べさせるのではなく、ブリ大根に込めたブリの味を持って海のすばらしさを伝える。このページで「これが海だったらこんなに生き生きと潮風を感じることもなかっただろう」という通り、海を感じさせるのに海を見せるという安直な手法よりも、敢えて老朽化したビルで味わうことでブリの中に広がる海を感じさせるという手法もうまい。

これも実に身につまされるというか、海の物を食べたいから海に行けばいいという単純な発想よりも「この人が本当に求めているものは何なのか」までもう一歩深く突き詰める姿勢は、常に意識しておきたいものです。

生肉勝負(18巻「生肉勝負!!」収録)

究極対至高の生肉対決、審査員の中に馬主がいるにもかかわらず馬肉メニューを用意し、審査員から非難ごうごうの山岡士郎。実はこれ、相手に花を持たせるために山岡士郎がわざと負ける回なのですが、この審査員のいう「料理が人間の上に君臨することは許されません」という言葉が実に深い。

 (原作:雁屋哲、作画:花咲アキラ「美味しんぼ」BookLive!電子書籍版18巻・47ページ)
(原作:雁屋哲、作画:花咲アキラ「美味しんぼ」BookLive!電子書籍版18巻・47ページ)

若い頃にこの回を読んだときは「究極のメニューを追求するなら審査員の好みではなく本当にうまいものをだすべきだ。馬肉出すのも間違っていない」と思ってたんですが、今改めて見るとそれはやっぱり傲慢かもしれない。もちろん、こんなこと言い出したらイスラムの人には究極の肉料理をそもそも出せなくなってしまうのですが、それでも目の前にいる人が食べられないものを「これが究極だから」として出すのはやっぱりエゴであり傲慢かもしれないなと思うようになりました。

例えばインターネットの世界で言うならば、すべてのWebページはリンク自由なのですが、それでも「トップページにリンクしてください」という人の気持ちは尊重してあげたい。理屈ばかり正論を振り回すのではなく、その場の人に応じて立ち振る舞うことの大事さにきづきはじめたのはもういい年だからということですかね。

鍋対決!!(31巻「鍋対決!!」収録)

究極対至高の鍋対決、「鍋は地方ごとこだわりがあるから1つに絞れない。だからみんなが好きな具材を入れられる寄せ鍋にしよう」と考えた究極陣営に対し、海原雄山率いる至高の陣営は「究極の5大鍋」と称し、蟹やふぐ、すっぽん、あわびなどこれでもかというほどの高級食材を投入。その判定はというと、高級食材をたらふく使った至高側に軍配が上がるのでした。

(原作:雁屋哲、作画:花咲アキラ「美味しんぼ」BookLive!電子書籍版31巻・196ページ)
(原作:雁屋哲、作画:花咲アキラ「美味しんぼ」BookLive!電子書籍版31巻・196ページ)

究極側は全国の鍋を調べれば調べるほど、地域ごとに鍋のこだわりがとても強いことを知り、「この鍋が一番とはとても言えない」と考えてすべての具材を取り揃えた「万鍋」を仕立て上げるのですが、それは結局周りの目を気にしすぎるあまり「究極」であることを忘れてしまった本末転倒な料理になってしまった。これも本当に他山の石で、ついつい周囲の目を意識しすぎて周りに受けることばかりを考えてしまうと本題を見失ってしまいがち。

とはいえお前1人で5つも鍋出すのずるくねえかという思いはありつつそこはそれ、スパゲティ対決でも複数のスパゲティ出してたのだから1つの鍋に絞ってしまった山岡さんが不利すぎました。

こんな感じでエピソードを5つほど抜き出してみましたが、美味しんぼにはほかにも名エピソードがいっぱい。後半の料理うんちく回、特に日本味巡りや海外取材系はほんとにただの料理マンガすぎて全然おもしろくないのですが、前半戦はこういうヒューマンドラマ主体のエピソードばかりなので、ぜひ1巻から手に取って読んでいただけるとこれ幸いです。1巻の頃の山岡士郎はとがっててよかったなー。


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